唐突ですが、あなたの使っているキーボードのスペースキーはどんな状態ですか? 親指の脂がついてテッカテカ、なんてことはないでしょうか? もちろんそれは、あなたがこれまで一生懸命キーボードを打ち続けてきた証。誇れるものです。しかし、本当にできるライターになるためには、このスペースキーのテカりを抑えていかなくてはなりません。その理由は――長文変換に隠されています。
スペースを押す回数がどれくらいか考えてみる
あえてここで実験を行ってみます。以下の文章を、できるだけ細かく変換しながらタイプしていきましょう。
村田さんは世界で一番かっこいい男なので、もはや神です
僕の場合はおおよそ12回でした。つまり、12回スペースを押し、変換を確定するためにエンターを押している状態です。この方法でも、問題なく文章は作成できます。しかし、実はこの程度の一文なら、一発で変換してしまったほうが効率的です。
ためしに、上記の例文をすべてひらがなで打ち終わってから、スペースで変換をしてみましょう。「神です」が「紙です」になるくらいで、あとは普通に変換が行われます。
このように、都度変換をするのとそうでないのとでは、約12回分スペースの回数が変わってきます。先の例文は26文字。これがもし800文字の記事だとしたら、場合によっては400回くらいスペースを押さなくてはなりません。
一日800文字の記事を4記事書くライターだとしましょう。この時点で、一日に押すスペースの回数は1600回です。月間の稼働日が平均20日だとするなら、月に32000回のスペースを押すことになります。年にすると384000回です。
変換のしすぎが、スペースキーを殺す
一般的なキーボード(メンブレン方式)の耐久性は約100万回といわれています。つまり、変換を細かく行いながら記事執筆を行っていると、3年くらい使ったらもうそのキーボードのスペースキーは寿命を迎えてしまいます。これはあまりに無慈悲。たった3年で寿命を迎えるなんて、キーボードがかわいそうです。ああかわいそう。
このヤバさは伝わっているでしょうか? 正直、一日にたった3200文字しかタイプしないなんてライターではありません。最低でもこの2倍はタイプしているでしょう。そう考えると、スペースキーの寿命はたったの1年半になってしまうのです。
タイピングがそれ以上早くならない
変換を多用する人のタイピングには限界があります。ある程度のレベルにはなれますが、それ以上のスピードは望めません。もちろん、タイピングが遅くても記事作成はできますが、たとえばうっかり納期を忘れていた案件を思い出したとき。鬼の集中力と悪魔の思考力、そして妖怪のごときタイピングでその場をしのげなくなります。もちろん、こうした状況に追い込まれないようマネジメントをするのが正しいです。
業界で村八分に遭う
変換しすぎるライターは業界で“よそ者”だと思われます。無下に扱われ、最終的には村から追い出されてしまうことも。それもこれも、変換しすぎるあなたが悪いのです。
変換を多用しないことのメリット
変換の多用が招くデメリットは伝わったでしょうか? 次は、メリットについて考えていきます。
記事作成のクオリティが上がる
スペースを押す回数が減ると、当然余計な動作が少なくなりますからタイピングが早くなります。そのため、記事執筆のスピードも向上します。
すると、その分だけ構成を練ったり文章を推敲したりする時間が確保できるようになります。ライターが行う作業の中で、前述の2つはクオリティに結びつく重要なポイントです。いわば、タイピングとはただの作業。大切なのはいかによい記事を書けるか。そのために、タイプスピードを上げるのは決して無駄ではありません。
誤変換が少なくなる
変換の回数を増やせば確実な変換につながる、と多くの方は考えがちです。しかし、これは大きな間違い。長文変換をするには正確なタイピングが求められます。少しでもtypo(打ち間違え)があると、正しく変換が行われません。そのため、だだだ!とキーボードをたたくように記事を書いたとしても、変換時にミスに気づきやすくなります。
また、本人でも気づかないような漢字の誤用に気づかせてくれることもあります。たとえば、「教科書を改訂する」という一文。長文変換であれば、正しい“改訂”が表示されます。しかし、単語単位で変換をしていると“改定”という漢字を使ってしまうこともあるのではないでしょうか? なんとなくでしか知らない漢字の使い分けも、長文変換であれば前後の文節から判断され、正しい変換ができるようになります。
文章にリズムが出る
中には、長文であっても一度頭で考えてから書き出せる、という方もいらっしゃるでしょうが、ほとんどの人はそうではありません。書きながら、次の文節を考えていることが多いです。しかし、変換作業が多いとこの思考がいったんストップしてしまいます。一文単位で変換を行うのには、文章のリズムをよくしてくれる効果もあるのです。
なんかかっこいい
誰かが文章を書いているとき、手元を見たことはありますか? 一番かっこいいのは、止めどなく流れるように指が動いていることです。変換作業が入るとこの流れが止まります。乱暴に、下品に、スペースキーを乱打する姿になってしまうのです。美しくない、そんなの You are not beautifulです。一方、長文変換を身に着けた人の手元は美しく、女にモテるし金が貯まるし親は医者だったりします。
本当に変換を押さなくてもちゃんと変換されるの?
まだ私の金言を信じられない愚かなライターがいるようなので断言します。今のIMEはかなり正確な変換を行ってくれるようチューニングがなされています。以前までは評判の悪かったMS-IME(Microsoft製の日本語入力システム・Windows標準)も、かなりの精度になっていると言えるでしょう。最近では、クラウド変換と呼ばれる機能も搭載されたので、ナウでヤングな単語もしっかり保管してくれます。
ただし、はじめのうちは誤変換が出てしまうのは仕方がありません。なぜなら、それまでの変換の癖がIMEに記憶されてしまっているからです。急にやり方を変えてしまうと、IMEも戸惑ってしまいます。そのため、彼が慣れるまでは根気よく長文変換を続けましょう。MS-IMEは頭のいい子です。きっとあなたの頼りになる相棒になってくれるはずですよ。
※この記事はすべてATOKを使い書いています。MS-IMEよりもいいです
とはいえ、最後は好みでもあります
ここまで長文変換マンセーで記事を書いてきましたが、実際には細かく変換をした方が早く打てる、という方も少なくありません。また、細かく変換をすることで間違いを確認できる、という人がいるのも否定はしません。
しかし、どちらかといえばこうした意見を口にするのはかなりの玄人ですよ、というのが自分の意見です。僕の何倍もの量の文章を書いてきて行き着いた境地な訳ですから、それをひよっこライターが真似しようとしてもうまくいかないだろうと思います。
駆け出しライターさんの場合は、とりあえず今回ご紹介したように長文変換を基本に記事を執筆していきましょう。その後、自分なりのスタイルを身に着けたなら、この記事のことは忘れていただいて結構です。以上、締めがイマイチになってしまいましたが、長文変換っていいよねって話でした。